音楽療法士、ピアニスト 西村和晃先生
医学博士 大山博行先生 対談
「心の平安と音楽療法(安息の時を求めて)」
2009.9/27(日)

















音楽療法士、ピアニスト 西村和晃先生
医学博士 大山博行先生 対談
「心の平安と音楽療法(安息の時を求めて)」
日時:2009.9/27(日)
場所:大山宗伯東洋医学記念館

生活の質の向上QOL(quality of life)と漢方医学
①QOLの変化―大学病院漢方クリニックでの調査
慶應義塾大学病院漢方クリニックの力石千香代氏らは、漢方治療が全人的医療であることを重視し、そのQOL(quality
of life)に対する評価について、
従来の疾患別の調査ではなく、疾患の枠組みを乗り越えた調査を行うべきだ、との考えから、この目的の用件を満たすWHO-QOL-26評価スケールを用い、
治療前後の変化を調査・検討してみた(日本東洋医学雑誌、1999;49【6】180)。
このWHOの評価スケールとは、QOLを以下の5領域26項目に分類して評価を行うものである-1身体的領域(7項目)2心理的領域(6項目)3社会的領域(3項目)4環境(8項目)5全体(2項目)。
対象は、同クリニック受診以前に漢方治療を受けておらず、3カ月以上にわたって50%のコンプライアンスをもって漢方薬を服用した15例。
患者の同意を得て、治療前と治療3カ月目に、WHOスケールで得点の変化を比較検討した(統計解析は、paired
t-検定を用いた)。
その結果、治療後の平均値は治療前と比較し有意な改善を認めた(p<0.01)。
これを領域別にみると、2心理的領域と5全体で有意な改善(p<0.01)、4環境でも改善傾向(p<0.1)が認められている。
②がん患者QOLへの効果
「癌細胞に対する宿主の生物学的応答を修飾することによって、治療効果を招来せしむる薬物または試み」と定義されているBRM(Biological
Response Modifiers)が、
近年注目を集めるようになり、日本BRM学会も組織されている。
その第10回学術集会総会において、東札幌病院緩和内科の樽見葉子氏らは、BRM製剤的な作用が期待される漢方製剤を、終末期癌患者に単独投与して、
身体症状とQOLスコアおよび免疫機能を測定した結果を報告した(Biotherapy,1998;12〔5〕820-822)。
対象は進行癌患者9人(男5人・女4人)で、年齢は54歳~76歳、内訳は腎細胞癌3人、肺非小細胞癌と乳癌が各2人、肺大細胞癌と悪性繊維性組織球腫瘍が各1人、全員が病期Ⅳで転移がある。
以前の治療は、54歳の乳癌患者のみ治療なしで、その他8人は化学療法を受けていた。
これら患者に、漢方製剤7.5g/日の1ヶ月間単独治療を行い、その前後にQOLの評価と免疫機能の測定をした。
QOLの評価は、栗原班のQOL質問票と単一尺度のアナログスケールの方法で行った。
免疫機能は、NK活性、CD3(+)、CD8(+)、CD4(+)/CD8(+)比、CD20、IL-6を測定した。
投与した漢方製剤とその人数は、人参養栄湯5人、補中益気湯3人、柴苓湯1人であった。
その結果、免疫機能検査の有意な改善は認められなかったが、自覚症状の改善と栗原班のQOLスコアの改善を認め、「漢方薬は有用な癌治療法であることが示唆された」としている。
なおこれらの漢方製剤に関する作用機序については、すでにいくつかの研究がある。
たとえば慶応義塾大学医学部消化器内科の金子文彦氏らは(消化器癌の発生と進展、1997;9:465-468)、
補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯のヒト培養肝癌細胞に対する直接の抗腫瘍効果を検討。
その結果、生体防御機能を回復させる以外に、直接に癌細胞の増殖を抑制している可能性が示唆されたとしている。
③免疫能とQOLの改善をみたC型肝硬変合併末期肝癌
進行した末期肝癌でがん性疼痛をきたすような場合は、一般には緩和療法としてモルヒネで鎮痛を行い、食事の摂取が不十分であれば栄養状態の改善をはかるため中心静脈栄養が付加される。
北海道厚生連鵡川厚生病院の井齋偉矢氏は、このような状態の患者に補中益気湯を投与したところ、
長期延命効果は得られなかったが、免疫能とQOLの改善をみたと『別冊・医学のあゆみ 肝疾患の漢方治療』(1998;135-136)に報告した。
患者は83歳男性、95年6月20日初診。30歳代と40歳代に出血性胃潰瘍に罹患した時、大量の輸血を受けた。
86年から、輸血によると思われるC型肝硬変で治療を受けていたが、94年1月、腹部超音波検査にて肝癌(S5)が発見され、
手術と抗癌剤動注療法は高齢のため適応外とされたので、テガフール/ラウシル配合剤の経口投与を受ける。
95年になり多発性であることがわかり、全身状態などが悪化したため、地元での治療を希望し来院。家族歴に特記すべきことはなし。
初診時は、全身倦怠感を主訴とし、食欲も不振で、体重45kgとやせていた。
テガフール/ウラシル配合剤は中止し、外来通院治療でツムラ補中益気湯(7.5g/日)を投与した。
その後、全身状態と食欲は改善傾向にあったが、8月7日癌性疼痛で入院し、塩酸モルヒネ座薬10mgを8時間ごとに投与。
漢方薬は経口摂取不能のため中止したが、2週間後に再開。中心静脈栄養は入院1ヵ月後に中止できた。
9月から安定した状態が続き、11月下旬から外出可能となり外泊もしたが、12月下旬から腫瘍の急速な増大と全身状態の急速な悪化があり、96年1月24日肝硬変とDICのため永眠となった。
井齋氏は「補中益気湯の投与開始後、末梢血リンパ球数およびNK細胞活性が上昇し、それに伴ってQOLの改善もみられたことから、
免疫能の改善が臨床症状の改善に寄与した可能性が示唆された」と述べている。
④インターフェロンとの併用でCRを得た腎細胞癌肺転移例
確立された有効な治療法がなく予後も不良な、遠隔転移を有する腎細胞癌の症例において、BRM剤であるインターフェロンと漢方薬を併用しCR(complete
response:完全消失)を得た、
と富山医科薬科大学泌尿器科の里見定信氏らが報告した(泌尿器外科、1994;7〔2〕165-169)。
患者は63歳、男性、88年に肉眼的血尿で近医を受診するが、異常なしと言われ放置。
90年10月血痰で赤十字病院内科を受診、左腎細胞癌肺転移と診断され、90年10月17日当科に紹介された。
身長156cm、体重46・0kg。腎CTで左腎上極に径約6cmの充実性腫瘍を認め、左腎の選択的腎動脈造影で左腎上極に著明な血管新生像とtumor
stainを認めた。
90年10月25日、左腎動脈塞栓術を施行。
10月30日、経腹膜的左腎摘出術を施行し、肺転移巣にrIFN-?-2a
3×10 6単位、計18回筋注を施行するが、NC(no change:不変)でしかも副作用があり中止。
91年2月18日退院となり経過観察していたが、6月3日よりrIFN‐?1×10 6単位、週2回静注に変更し、
さらに食欲不振・易疲労感が持続していたので当院和漢診療部と相談し、補中益気湯7.5g/日(分3)の経口投与を併用した。
投与1ヵ月後、胸部X線検査では明らかなcoin lesionは20×18㎜の1個だけになり、さらに投与4ヵ月後には、転移巣は胸部CTでも認められず、4週間以上新病巣の出現もないのでCRと判定した。
91年12月には入院前の体重46.5kgにもどり、92年1月から、rIFN‐?1×10 6単位、週1回静注に変更し継続投与しているが、30ヵ月間にわたりCRを維持している。
自覚症状では、漢方薬投与1ヵ月後より腹痛が消失、2ヵ月後より食欲不振も消失している。
里見氏らは「補中益気湯は、インターフェロンの副作用軽減にも有意義な薬剤と思われた」と述べ、さらに「本症例では、補中益気湯により誘発されたIFN-?と低用量rIFN?とが相乗的に作用し、
有効であったのではないかと考えられる」とし、「漢方薬が患者の証とあえば、インターフェロンとの併用療法も有効であることが示唆された」と考察している。
⑤化学療法中止となった悪性リンパ腫
東京大学医学部第一内科の永井良樹氏は、西洋医学的治療が主流の悪性リンパ腫について、腫大したリンパ節が縮小・消失した1例を報告
(漢方の臨床、1999:46┃3┃611‐616)し、漢方治療に反応しうる例もあることを示した。
患者は69歳、男性。下肢のしびれ感を主訴として98年6月来院。現病歴は、95年7月、悪性リンパ腫のため某医大血液内科に入院。
計8回(入院中2回、退院後外来で6回)の化学療法を受けたが、96年5月再発のため再入院し、化学療法を4回受けたところ、しびれ感を両下肢(膝から下)と手の指先に覚えて歩行困難となった。
初診時は、身長173㎝、体重63㎏、血圧150/80㎜Hg、上下肢の筋力および触覚・痛覚の異常なし、右顎下部に直径2.5㎝、1㎝、右則頸部に1.5×1㎝、左顎下部に2×1・5㎝のリンパ節が触知された。
治療は、主訴に対して牛車腎気丸料などを投与したが無効なので、原病の治療を行う方針に変えた。
炎症性のリンパ節腫大に用いられる小柴胡湯に梔子(3.0)と枳実(3.0)を加えた処方(大塚敬節氏の症例報告あり)に、さらに抗癌作用が期待される生薬かわらたけ(8.0)を加えた。
この処方を投与したところ、2週間後に右顎下部と側頸部のリンパ節が縮小し、さらに2週間後にはいずれも触知しなくなり、左顎下部および鼠蹊部にあった腫大リンパ節も縮小した。
そのため、予定していた化学療法は中止となり、また検査の結果、LDH値も漢方治療前約600が374まで下降していたという。
⑥消化器癌術後のQOL改善
術後の体力低下や免疫機能低下への漢方療法の有用性につき、神奈川県立がんセンターの岡本堯所長らは、最も使用頻度の高い十全大補湯を実験・臨床両面から検討した
(日本消化器外科学会雑誌、1995:28┃4┃971‐975)。
そのマウスによる実験では、悪液質誘起作用のあるTNFによる体重減少の阻止、NK細胞活性低下の軽減を認めた。
臨床的には、アンケート形式でQOLを調査し、その時点での生化学的・免疫学的な検査と比較検討した。対象は109例(男55例・女54例)。
疾患の内訳は、胃癌31例・結腸癌40例・直腸癌26例・乳癌7例・肺癌5例で、消化器系の癌の術後がほとんどであった。
漢方薬は、十全大補湯が長期投与され、ほかに潤腸湯・補中益気湯も使用された。
術後のQOLは、身体的状況については90%以上、精神的状況については85%以上が満足していると回答した。
易疲労性は術後に最も増大した愁訴(約60%)であるが、免疫学的にはNK細胞との相関が認められた。
⑦胃切除後の吻合部狭窄による消化器症状の消失
胃切除後にしばしば出現する、つかえ感・嘔気・もたれ・上腹部膨満感などの、吻合部狭窄による消化器症状は、西洋医学的治療では難しいものが多い。
慶応義塾大学病院漢方クリニックの福澤素子氏らは、これらの症例には、術直後例と長期経過例のいずれにも漢方治療が大変有効であると述べている
(日本東洋医学雑誌、1999;49〔6〕155)。
症例1は、59歳、男性。胃癌で胃を切除(B-I法)したが、15日目に吻合部浮腫による狭窄があり、外科より治療を依頼された。
漢方薬の茯苓飲を投与したところ、翌日には症状の改善をみた。2日後に胃内視鏡検査で吻合部浮腫の軽減を確認、食事摂取可能となった。
症例2は、68歳、男性。早期胃癌(Ⅱc)で胃を切除(B-I法)し、11日後に吻合部狭窄によるつかえ感・胃癌が現れた。
退院後1年間外科で治療を受けるが、改善しないため受診。茯苓飲を投与し、約2週間で症状はほとんど消失した。
症例3は、64歳、男性。胃潰瘍で胃を切除(B-I法)したが、その後約5年間、つかえ感・もたれ・上腹部膨満感などが続き、外科で治療を受けたが改善しないため受診。
茯苓飲を投与したところ、約2週間で上腹部膨満感が消失、1ヵ月後には症状がほとんど消失した。
⑧Crohn病患者のQOL向上
現在Crohn病は原因不明のため、治療ではQOLの向上がその目的となる。
長期経過中にしばしばイレウスが生じて、手術が必要となることもあり、しかも再燃再発率が高いので、特にイレウス対策が重要である。
これに対しては漢方薬が有用な治療の一つである、と東京の社会保険中央総合病院内科・高添正和氏らが述べている(Digestion & Absorption,1997;20〔1〕48-53)。
対象は53例(男42例・女11例)、年齢16~53歳(平均33・4歳)いずれも同院Crohn病外来に通院治療中で、病変部腸管狭小化を呈し、
在宅成分経管栄養(1日600~900kcal)を行っている。病型は小腸型28例・小腸大腸型25例で、腸管切除あり32例・なし21例、口側腸管拡張あり19例・なし34例。
同院では腸管狭窄小化を認めた患者には、イレウスの発症を予測し、在宅で患者ができる方法(坐薬・浣腸)や緊急時の連絡方法を教えて、来院から入院に至る段階的アプローチをとっている。
来院時の腹部単純写真でイレウスを確認した時点で、大建中湯5gを投与し、それで効果のない時は入院してイレウス管挿入となる。
今回の患者では、大建中湯投与後のイレウス改善に要する時間を検討し、以前の非投与時の状態を比較対照とした。
その結果を口側腸管拡張の有無で分けてみると、拡張を伴う例では大建中湯投与によりイレウスを解除し得たのは19例中9例(時間4~48時間)で、13例が入院の転機をとっている。
しかし、拡張を伴わない例では、全34例が外来治療で12時間以内(平均5・76±2・10時間)にイレウスが消失して、入院の必要はなかった。
なお拡張を伴わない例での非投与時のイレウス解除時間は平均84・82±30・02時間で、これと比較すると用途時のほうが有意に短縮している(p<0.001)。
高添氏は「QOLの向上に資すること甚だしく有用であると思われる」と述べている。
⑨術後イレウス治療に対する有用性
大建中湯については、東京慈恵医科大学第2外科の古川良幸氏らが、消化管運動に対する作用と術後イレウス治療に対する有用性を検討し、報告している
(日本消化器外科学会誌、1995;28〔4〕956-960)。
イヌによる基礎実験では、大建中湯の消化管運動に対する作用が、初めて科学的に証明された。
すなわち、大建中湯投与後に胃、十二指腸、空腸、回腸の運動亢進が観察され、胃粘膜麻酔後では、これらの運動亢進作用は全く認められなかった。
臨床的検討では、イレウスで入院した93例を対象にした。うち手術例24例(大建中湯投与6例・非投与16例)、
保存的治療69例(大建中湯投与20例・非投与49例)で、いずれも症例の背景に偏りはない。
有意差を認めたのは在院日数で、投与群21.8±2.4日に対して非投与群27.7±2.9日であった。
古川氏らは、「イヌによる動物実験の結果から、大建中湯の経管的投与の場合、最大効果発現時間までには約30分かかり、
投与後この期間はイレウス管を解放すべきではないものと考えられた」とし、さらに「イレウスに対する大建中湯療法は、
外科医が期待する以上に有効である場合が多く、患者のquality of lifeの面からも、いたずらに手術を急ぐよりも、まず第一に用いてよい治療法であるものと考えられた」と考察している。
なお同じ外科領域で、横浜市立大学医学部救命救急センターの杉山貢助教授が、術後癒着製イレウスに対する大建中湯エキス顆粒(TJ100)の効果を、
多施設共同研究している(Progress in Medicine,1993;13:2901-2907)。
そして、主治医の総合評価でやや有用以上が61例中88.5%と、良好な成績が得られたとしている。
⑩高齢者のADL改善における有用性
代表的な補剤(免疫力、造血機能、消化機能などを引き出し活性化する作用をもつ薬剤)である補中益気湯が、
加齢に伴って低下する心身の諸機能の改善に有用かどうかを検討した報告が、第49回日本東洋医学会学術総会で、
愛媛大学医学部医科学第2の二宮裕幸氏らによって行われた(日本東洋医学雑誌、1998:48┃6┃155。
対象は老健施設の入院患者で、これを補中益気湯投与群と、対照群として大棗(ナツメ)3g単独投与群にわけ、
それぞれ4週間投与し、その前後に血液生化学検査、精神神経学的検査、自覚症状およびADL改善後のアンケートなどを行い検討した。
4週間投与完了したのは、補中益気湯群8名(男1名・女7名、平均年齢84.1歳)、対照群8名(男3名・女5名、平均年齢83.5歳)であった。
臨床検査結果では、投与前後に有意な変化は示されていないが、日常生活動作(ADL)の評価としてのBarthel Indexの変化が改善を示した。
これは、「日常生活に介護の程度が軽くなり、自立してものごとを行うようになる傾向を示している」。なおいずれの群でも肝障害や腎障害の発症はなく、副作用も認められなかった。
⑪療養型病床群における効果
療養型病床群とは、慢性期医療の定額科の方針により、一部公的介護保険に向けて導入された病巣群で、
一般病院に比べ患者1人あたりの医師・看護婦数は少ないかわりに、病床面積が広く、介護スタッフや食堂・談話室・風呂などの諸設備が充実している。
患者の大部分は老年痴呆や脳血管障害後遺症で、ほぼ西洋医学的な治療は完了し、あまり有効な治療がないという問題をかかえている。
医療法人壽生会・寿生病院の下手公一氏らは、200床の療養型病巣群において、西洋医学のみを学んできた医師4人に1年間漢方医学を教えながら、
漢方治療を自由に行ってもらった結果を検討している(医療経営情報、1999;No.113:16-18)。
その結果、最も顕著な動きは、患者一人当たりの薬剤費の急激な減少であった。
西洋薬のみ使用の平成9年度上半期が1日1人当たり1394円であったのに比べ、漢方薬を併用した平成10年度上半期は同じく741円(うち漢方薬は117円)で、
減り方も偏ったものでなく多岐にわたるものであった。概算すると200床の病院で、年間4767万円の節減になる。無理に中止したものではなく、自ずと減っていったものだという。
使用した漢方薬は、上から順に当帰芍薬散、人参養栄湯、十全大補湯、八味丸、抑肝散加陳皮半夏、麻子仁丸、補中益気湯、柴胡桂枝湯、真武湯、牛車腎気丸で、
有名な処方がほとんどである。しかしある程度の勉強は必要で、毎日少しずつ漢方の教科書を輪読した成果であろうとしている。
患者に対する影響としては、以下の3点が上げられている。
1.第三、第四世代の抗生剤が大幅に減少し、さらに第一、第四世代のものまで半減していることから、
易感染性について有効であったこと(他院かr転院時にすでに持っていたMRSAが、漢方薬で消失した例もあり)。
2.精神不安や意識低下などの精神症状に大変有効で、徘徊したり暴れたりすることが少なくなったこと。
3.食欲不振が著明に改善する例が多く、点滴が少なくなり、スタッフの時間の節約にもなったこと。
⑫意欲低下型脳血管性痴呆に対する効果
筑波病院の橋本京子氏らと東京女子医大神経精神科の研究グループが、老年期痴呆のうち意欲低下型の脳血管性痴呆患者に対して、
桂枝加竜骨牡蠣湯を投与した結果を、『日本東洋医学雑誌』(1998;48〔6〕155)に報告している。
対照は、筑波病院入院中の60歳以上の患者、男5名・女7名。全員が長谷川式痴呆スケール5点未満の重度痴呆で、意欲低下型の脳血管性痴呆患者である。
漢方薬は7.5gを1日3回、6週間投与され、精神症状と東洋医学的身体所見(舌・脈・腹部など)について経時的な変化を検討し、これら両面から効果を判定した。
結果は、1名が合併症で死亡したので残り11名で検討した。長谷川式痴呆スケールの改善例はなかったが、全般改善度では著明改善3例・中途度改善5例・軽度改善2例・不変1例・悪化0例であった。
また部分症状別効果では、発動性、不安・心気症状、発語、認知障害において有意な効果が認められた。身体所見では、投与前に腹直筋痙急を示した7例中6例が、投与後に著明改善を示した。
本橋氏らは、「全般改善度は、軽度改善以上の効果が80%以上と効率であり、今後有効な治療法の一つと考えられた」と総括している。
⑬寝たきり老人のADLを著明に改善
リハビリテーション主体の寝たきり老人に漢方薬を使用したところ、著明に日常生活動作(AOL)が改善できた、
とリバーサイドホスピタル東洋医学センター(長野県)の川俣博嗣氏らが報告した
(日本東洋医学雑誌、1996:47┃2┃253‐260)。寝たきり老人に対する、漢方医学の寄与を具体的に示す例として注目される)。
報告は2症例で、症例1は76歳、女性。93年8月くも膜下出血(前交通動脈の動脈瘤による)で倒れ、
クリッピングが行われた。約5ヵ月間の入院で寝たきり状態となり、リハビリテーションとADLの改善を目的に、94年4月同センターに入院。
入院時は身長156㎝、体重42㎏、血圧140/70㎜Hg、脈拍80/分整、両下肢に軽度の麻痺、著明な廃用性萎縮、意欲の低下があり、
基本動作は全介助状態。血液検査で高コレステロール血症を認めたほか、異常所見はなし。
約2ヵ月間、六君子湯エキスとリハビリテーションを行う(後の1ヵ月ほどは人参湯エキス併用)が、ほとんど寝たきり状態で、リハビリへの意欲もなし。
6月から腹部の漢方的所見を重視し、小建中湯に変更した。10分程度の座位保持と、介助による立位可能となるが、リハビリへの意欲は不十分。
そこで10月初旬、小建中湯よりも虚労タイプに用いる黄耆建中湯(小建中湯+黄耆10g)を投与したところ、
2週間目頃より徐々に意欲の上昇が得られ、ADLが改善し、身の回りのことが自分でできるようになり、95年7月退院となった。
続く、
